miumiu財布新作 2012
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null 疾風(はし)る。突風のように。  奔(はし)る。津波のように。  邪魔を切り裂き、なぎ倒し、限界を超えて更に走った。  二つの風と濁流は常軌を逸した速度で疾走し、やがて森の切れ目を迎えた。それでも速度は衰えない。アーチャー達は唐突に反転した志貴達を、いくらか遅れて追いかけている。アーチャーは切り裂かれ、血に塗れた外套を翻し、全速力で走っていた。それでも追いつかない。万全でも追いつけるという自信は無かった。それほどに、バーサーカーと志貴は異常だった。  志貴は、己が何のために駈けているのかさえ忘れていた。キャスターが戦っている。知ったその瞬間に、悩みなど消え失せた。誰かにキャスターが倒される光景は、見たくない。見てはいけない。彼女を送り出すときは、作り物でも笑顔を向けて「ありがとう」と言わなければ、気がすまない。  今になって気付く。キャスターが聖杯の真実を話す必要など無かったことに。聖杯戦争に勝ち抜くことが目的ならば、妹を救えないという言葉は隠せばよかったことに。  人間など滅びてしまえばいいと思う裏で、人の温もりが愛しいとずっと願ってきたのだから、言わなければよかった。そうすれば遠野志貴は、何も知らずに彼女と共にいたのに。  だが報せてくれた。怖がりながらも教えてくれた。信頼してくれていたのだろう。でなければできない。ならば、裏切ったのは誰だ。  こんな終焉は認めない。絶対に認めない。  知ってしまった以上、これ以上戦うことはできない。けれど、彼女に謝ってからでないと、帰るなんて選択肢は、選べない。  故に疾風(はし)る。突風のように。  バーサーカーはただ主に従うだけだった。ただ主の必死さに比例して、足に力を込めるだけ。まともに思考する頭脳などありはしない。主が『走れ、もっと速く、速く』と繰り返すたびに、力強く大地を踏みしめる。主が必要とするならば、海さえ割って走る自信がある。  主の心から不安で零れ落ちているようだった。バーサーカーとて気付いている。あの騎士と対等以上に戦うこの気配が、此度召喚された七騎のいずれにも該当しないということに。  だがそんなことは関係がない。主が必要とするから奔(はし)るのみ。津波のように。  腹に響く地鳴りが、屋敷の窓ガラスを粉々にしながら襲ってくる。何度も何度も、その度に志貴の体は冷えていく。  セイバーとの契約で、キャスターはその強大な魔力量を半分近くまで減らしているが、無尽蔵に近い魔力には余裕がある。魔力を世界から取り込む技術において、キャスターほど長けた者はいない。それでもこれほど影響されるということは、セイバーを戦わせているためだろう。剣戟の一撃で閃光が城を包み、疾走するだけで床が踏み抜かれる。 『セイバーも哀れよね』  ふと、いつだったかキャスターがぽつりとこぼしたセリフを思い出した。